5月4日宇治田原へ化石採取の下見へ

 

京都府綴喜郡宇治田原町における化石産地の下見及び採集状況について

現役生が化石採集の経験がないことや、新入生(入部予定者)に採集体験をしてもらうため、京都の近辺で化石採集ができる候補地として宇治田原町を選びましたが、平成25年5月4日(土)、小生が新入生の時と3回生の時に行って以来、実に30数年振りに、1期生の田中真一郎さん共々、下見を兼ねて化石採集に行ってきましたので、その顛末を報告します
【 文責:8期生 安藤 】。

  • 1.場所
    京都府綴喜郡宇治田原町湯屋谷、大福、奥山田
  • 2.時代
    新生代第三紀中新世(約1500万年前) ○宇治田原町の概要 宇治田原町は京都府の南端、滋賀県境に位置し、北は滋賀県大津市と京都府宇治市、西は城陽市と隣接している。古くから宇治茶の産地として名高いが、新生代第三紀中新世(約1500万年前)の貝類や木の葉の化石を産出することでも有名である。 この新生代第三紀中新世の貝類等を含む地層は綴喜層群といわれ、中新世の第一瀬戸内累層群を形成しており、東部の海成層の中では最も北西に位置している。 ちなみに東部の第一瀬戸内累層群は、東は長野県の下伊那郡阿南町富草から愛知県、岐阜県、三重県、滋賀県を経て、京都府、奈良県に分布しており、当時は瀬戸内海の海の底であった。 この綴喜層群は更に細分化され、上部層の湯屋谷累層(田原花崗岩質砂礫岩層、塩谷砂岩層)と下部層の奥山田累層(栢(カヤ)凝灰質泥岩層、宮村砂岩層、川上基底礫岩層)に分かれている。このうち化石類は塩谷砂岩層、栢凝灰質泥岩層を中心に見ることができる。
  • 3.参加者
    田中真一郎さん(1期)、安藤孝夫(8期)
  • 4.行程
    今回は下見が主体ということで、採集よりも化石が含まれる場所(地層)がどこにあるか、それを探すため幅広く宇治田原町内を回った。 下見をしたルートは、
    ① 湯屋谷→大福→湯屋谷(一般的なコース)・・・第1~第3ポイント
    ② 大杉(国道307号線を、湯屋谷から2つ目のトンネル手前の右側脇道を進む)・・・第4ポイント
    ③ 奥山田地区奥山田会館南に位置する国道307号線バイパス杉山トンネル(工事中)手前のズリ捨 て場(4月29日に2期生の菅城さんが下見した場所)・・・第5ポイント
    ④ 奥山田地区茶屋田の国道307号線茶屋トンネルの上(国道307号線茶屋トンネルの上にあるズ リ捨て場で、同じく菅城さんが下見した場所) ・・・第6ポイント
  • 5.採集化石
    詳しい観察はまだしていないので種類は確定できないが、概ね以下のとおりではないかと思われる。
    第1ポイント:カガミガイ、キリガイダマシ
    第2ポイント:スダレハマグリ、ムカシキサゴ
    第3ポイント:ノムラカガミ?の痕跡、シオガマフミガイ?
    第4ポイント:二枚貝の痕跡は種族不明、巻貝の痕跡はタマガイか?
    第5ポイント:カガミガイ、ノムラカガミ?、ツキガイモドキ、クルマガイ?
    第6ポイント:ツキガイモドキ、シラトリガイ?
  • 6.活動状況
    朝6時30分自宅を出発。名神高速→京滋バイパス→宇治東インター→京阪宇治駅→府道3号線(大津南郷宇治線)→府道62号線→国道307号線と走り、途中コンビニで食糧を調達し、宇治田原町の湯屋谷に10時頃到着。湯屋谷会館で1期生の田中さんと待ち合わせる。 ※湯屋谷会館へは国道307号線を宇治田原郵便局とお茶の販売店(高田通泉園)を目印に右側へ分かれる道(お茶の「辻利」の工場が見える)を進む。(写真No,0225) 10時30分頃田中さん到着。準備をして11時前に出発。
    ① 湯屋谷→大福→湯屋谷 湯屋谷会館から50メートルほど歩き、コンクリートで固められた大きな崖を左手の道を進む。集落地の中の切り通しを観察するも化石は見当たらず(化石があったとしても、集落の中で地元の人の迷惑となるので、崩すのは厳禁)。集落地を越えて更に進むと道の左側に切り通しが見える(写真No,0228)。表面を観察すると暗灰色の泥岩層となっており、僅かではあるが化石が散在している。 ここの貝化石は殻が溶けて泥岩にその模様だけが残った感じである。ここでは観察だけにとどめ、化石は拾わず先に進む。暫く歩くと道の左側に青っぽい色をした砂岩層が見られ、第1のポイントに到着。ここの砂岩層の中には貝化石が密集した層があり(写真No,0229~0231)、カガミガイやキリガイダマシなどの化石が採れる。
    固さもそれほど固くないのでタガネ、ハンマーを使い容易に採集できる。サンプルを1個採集。 道をさらに登ると左手に小さな崖があり(写真No,0234)、二枚貝の化石が密集して見られる(第2のポイントに到着)。ここの地層は粒の細かい砂岩で、その中に数ミリメートルから3センチメートル程度の丸い黒色の小石が化石と混在して含まれている。化石を含む層は、厚さ50センチメートル程度はあり、大半はスダレハマグリであるが、その中に0.5~1センチメートルくらいの大きさのムカシキサゴという巻貝も見られる(写真No,0235~0237)。ここで暫く採集。サンプルを3個採る。 更に坂道を登ると峠の頂上に十字路があり、「家康・伊賀越えの道」という看板が立っている。
    ここを左に曲がり大福(国道307号線方面)へ向かう緩やかな下り坂(写真No,0241)を暫く歩くと、左側に暗灰色の砂岩の層がみられ、中心部が深くえぐられている(第3のポイントに到着、写真No,242~245)。ここは過去に相当採集が行なわれていたみたいで、崖の下には転石が多数転がっており、削岩機か何かで穴をあけたような跡があった(写真No,0248)。崖をよく観察すると若干ながら化石を含んでいるが、第1、第2ポイントのように化石の層は成しておらず、点在しているような感じである。転石を探すと二枚貝(ツキガイモドキ?)の痕跡がついた石があったので、サンプルとして持ち帰ることとした(写真No,0247)。他にも小型の二枚貝を3個ほど採集した。 第3ポイントでの採集終了後、坂道を下り国道307号線(大福のバス停付近)に到着する(写真No,0251)。ここから国道307号線を歩き湯屋谷会館へ戻ることとした。国道沿いの崖を観察したが殆どはコンクリートが吹きつけられているか、吹きつけられてないとしても化石を含む層は見当たらなかった。13時20分頃湯屋谷会館に戻り遅い昼食。13時50分頃田中さんを小生の軽トラに乗せ第4ポイントに向かう。
    ② 大杉(第4ポイント) 国道307号線を走り、湯屋谷から2つ目のトンネル手前の右側脇道を進む(写真No,0262)。文字通り農道といった感じで、軽トラがやっと1台通れるほどの道路幅である。暫く走ると左側に崖が見られるので車から降りて近辺を調べる。ここの地層は表面が酸化したような茶色っぽい砂岩で、非常に脆く化石はあまり見られなかった(写真No,0255)。それでも崖下の転石を叩いたら二枚貝らしきものがあったのでサンプルとして持ち帰る。少し歩くと道が二方に分かれており、山側へ行く道の左側に中心部がえぐられたような崖があったので表面を観察するが(写真No,0256~0258)化石は発見できなかった。この第4ポイントは採集地としては不向きというのが今回の感想である。
    ③ 国道307号線バイパス杉山トンネル(工事中)手前のズリ捨て場(第5ポイント) 第4ポイントから国道307号線に戻り、トンネルを越え奥山田会館の南にある国道307号線バイパス杉山トンネル(工事中)の第5ポイントに向かう(15時到着)。 ここは2期生の菅城さんが4月29日に下見した場所ということで、トンネル工事で掘り出した岩石が捨てられていないか調査した。国道307号線から奥山田会館手前の道を右に曲がると(写真No,0278)、新しくできた(というか工事中の)橋梁が見られ、その下に切り通しがあり(写真No,0274~0275)、よく観察すると小型の貝類を含む地層が見られた。 橋梁下の側道から本道に入り(写真No,0276)、道路脇の転石を調べる。まだ工事中なのでトンネル工事などで出た捨石が一杯置いてあるかと思ったら殆どなかったのでちょっと拍子抜けであった(写真No,0265~0267)。
    それでも少ない転石を一個一個丹念に観察すると化石を含む転石が見られ(写真No,0268~0269)、ハンマーで叩くと中からツキガイモドキ、カガミガイ、マルフミガイ、クルマガイ(タマガイ?)と思われる化石が見つかった(写真No,0270~0273)。 小生もここでサンプルを2~3個採る。トンネル近くを歩いていると二枚貝化石を含む人間の頭大の転石が見つかり、細かく割るのには時間がかかるのでそのまま持ち帰った(写真No,0305)。  同じような転石でもう2回り大きいのがすぐ近くに転がっていたが、これは重すぎて運ぶのは断念した(今度行ったらもう無くなっているだろうな)。
    ④ 国道307号線茶屋トンネル上のズリ捨て場(第6ポイント) 第5ポイントを16時に出発。最終地の第6ポイントに向かう。国道307号線を東方向へ走り茶屋トンネルを出たところで道路左側の脇道に車を停める。ここから菅城さん手書きの絵図面を頼りに山道を登って目的地を探したが一向に見つからず。道を間違えたと思い、また引き返して視界が開けた所から周りの様子を窺ったら、谷を挟んだ向かいの山の中腹に造成したような地形が見えたので、多分そこかと勝手に想像し、一目散に目的地を目指した(後になって分かったが、国道の左側でなく右側の道を入っていくべきであった)。 目的地は宅地造成地のような感じで、昔、国道工事をした際の土石類をそこに捨てたらしく、経年の雨水で覆土が流されたところもあり、その下の岩石が露出しているところもあった(写真No,0279)。つまりその地中は宝(化石)の山ということになる。 転石はそれほどはないが、丹念に探すと化石を含んだ石が転がっている(写真No,0282)。この場所の東側、この場所への進入路みたいな道の両側に切通しが見られ(写真No,0280、288)、その切通しを観察すると密集した化石を含む層が数か所見られた(写真No,284、0289、0290)。
    中には岩の表面に二枚貝の完全体が張り付いていたりで、採集には有望な場所である。ここで暫く観察と採集に励み、サンプルを3個程度持ち帰った。 帰りは切通しの先(東)から水田に下りていく階段を下り、その先の里道を歩き舗装道路(旧国道か?)にたどり着き(写真No, 0294~0296、0300)、車を止めてあった場所まで戻って17時30分に出発、最初の湯屋谷には18時に到着した。 ここで田中さんと分かれ、京阪バスの維中前バス停を探す予定であったが、あいにくのGWで西方(城陽市・新田辺方面)へ向かう道路がメチャ渋滞していたので断念し、また国道307号線を奥山田方面に引き返し、帰りは一路国道を東上して、信楽→彦根(国道307、306号線)→米原(国道8号線)→岐阜(国道21号線)→一宮(国道22号線)というルートで帰宅した(家に着いたのは22時30分でした)。走行距離は339キロメートル。
  • 7.参考事項(感想)
    何分、30数年振りに現地を回ったので、当時とは様相がかなり異なっているというのが偽らざる心境である。 国道沿いの崖は殆どがコンクリートが吹きつけられ、今般回ったコースも、崖は長年の採集の跡なのか、かなり深くえぐられてオーバーハング状となっている所があった。 国道307号線バイパス杉山トンネル(工事中)の近辺(第5ポイント)はかなり石(ズリ)が捨てられているのかと期待して行ったが思ったほどではなく、グループでの採集は不向きかと感じた。 今回の下見で採集できそうな所というと、第1、第2ポイント、第6ポイントあたりではなかろうか(個人的見解ではあるが)。特に第6ポイントは切り通しに化石を含む地層が鮮明に見えており貝類が密集しているので、層を剥がして岩の塊を採り出すのに手間と労力がかかり、また、完全体を採るのは難しいかもしれないが、誰でも化石を見ることができるので初心者を案内するには良いところではないかと思われる(石捨場を掘り返して中から石を採り出すのは体力と忍耐が必要か?)。
    なお、宇治田原町内にある「宇治田原町総合文化センター」には、宇治田原で採れた化石の展示コーナーが有るので(3階)、一度訪ねてみるのもよい。
    【宇治田原町総合文化センター】
    住 所: 京都府綴喜郡宇治田原町大字岩山小字沼尻46-1
    TEL: 0774-88-5851   FAX: 0774-88-5333
    交通アクセス:京阪宇治バス「維中前」下車、徒歩3分、 又は国道307号線から林業センター前三叉路で曲がる(駐車場あり)
    休館日:火曜日、祝日の翌日、祝日が火曜日のときはその翌日、館内整理日及び年末年始
  • 8.交通事情について
    何分山奥のため、現地まで行く公共交通機関はあまりないし本数も少ない。車(できたら小型の車)で行くのが最適と思われる。公共交通機関については当方で調べたところ、以下のコースがあった。
    ① 京阪宇治駅から京阪バスで維中前へ行くコース(緑苑坂、宇治田原工業団地行きバスも途中維  中前に停車)
    ② 近鉄新田辺駅から国立病院・緑苑坂へ行くコース(維中前に停車) 維中前から宇治田原町のコミュニティーバスが出ており、途中、湯屋谷、奥山田、茶屋村に停車する。 第1ポイント~第3ポイントに行くには湯屋谷バス停で下車、第5ポイントへ行くには奥山田バス停で下車、第6ポイントへ行くには茶屋村バス停で下車するのが最適かと思う(ただし、茶屋村バス停から第6ポイントへは少し距離があるので(一山越えることとなる)、多少は歩かなくてはならないだろう)。 いずれもバスの運行は1時間に1本程度なので、移動・採集時間に十分留意する必要がある。 なお、コミュニティーバスは運賃無料であるが、定員一杯になると乗せてもらえないので要注意。 バスの詳しい時刻、運賃は別添の時刻表を参照。
  • 9.今回利用した参考資料
    国土地理院発行2万5千分の1地形図(京都及大阪3号-2 朝宮) 京都地学ガイド(地学団体研究会京都支部) 瑞浪層群の貝類化石(瑞浪市化石博物館)
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